部屋の照明を少し落とし、小さな炎を眺める。スマートフォンを手に取る代わりに、しばらくそのまま過ごしてみる。そんな夜に、ほっとする人もいるでしょう。
キャンドルの心地よさは、よく「1/fゆらぎ」や「リラックス効果」という言葉で説明されます。ただ、何を調べた研究なのかを確かめてみると、炎の特徴を測ったものと、人の気持ちや体の変化を調べたものには違いがあります。
光が体内時計に影響することは研究されています。炎のゆらぎを測定した報告もあります。それでも、そこから「キャンドルを灯せば心身が整う」とまでは言い切れません。
では、キャンドルを暮らしに取り入れる意味はどこにあるのでしょうか。
光の性質と、灯す時間の過ごし方から考えてみます。
夜の灯りは、色と明るさの両方で考える
夜になっても室内は明るいまま。
照明の下で作業を続け、その後はスマートフォンを見る。
休むつもりで座っていても目には光が届き続けます。光は物を見るためだけのものではありません。目から入った光は体内時計にも関わり、夜のメラトニン分泌などに影響します。
メラトニンは、体に夜の時間を知らせる役割を持つホルモンです。
この働きには、青から青緑にかけての短い波長の光が強く関わります。ただし、影響の大きさは光の成分だけで決まりません。目に届く量、浴びる時間や時刻、それ以前に浴びていた光も関係します。2022年の専門家による提言では、健康な成人について就寝前は体内時計などに作用する光を少なくすることが勧められています。
キャンドルに似た暖かな色の照明を開発する研究もあります。2017年に発表された有機EL照明の研究では、発する光の成分をもとにメラトニン分泌を抑える作用に関わる指標を評価しています。これは照明の特性を調べた研究で、人に本物のキャンドルを使ってもらい、睡眠の改善を確かめた実験ではありません。
Jouら「Blue-hazard-free Candlelight OLED」
これらから暮らしに取り入れられるのは、寝る前の灯りを見直すという考え方です。暖かな色を選ぶことに加え、明るすぎないかにも目を向ける。キャンドルはそのきっかけの一つになりますし、明るさを調節できる電気の照明でも工夫はできます。
足元が見えなくなるほど暗くする必要はありません。安心して動ける明るさを残しながら、休む時間に合う灯りを探してみてください。

「1/fゆらぎ」があることと、癒やされることの間
炎を見ていると、同じように揺れているようで少しずつ形が変わります。その変化の特徴を説明するときに使われるのが「1/fゆらぎ」です。
1/fゆらぎとは、パワー(スペクトル密度)が周波数 f に反比例するゆらぎのこと。ただし f は0より大きく、有限な範囲をとるものとする。
ピンクノイズはこの1/fゆらぎを持つノイズであり、1/fノイズとも呼ばれる。自然現象においても見ることができ、具体例としては人の心拍の間隔、ろうそくの炎の揺れ方、電車の揺れ、小川のせせらぐ音、目の動き方、木漏れ日、蛍の光り方、スカートの揺れ、髪の揺れなどがある。
また物性的には、金属の抵抗、ネットワーク情報流が例として挙げられる。
これは不規則な動き全般を指す言葉ではありません。変動を周波数ごとに分けて調べたとき、その強さが周波数におおむね反比例するという統計的な特徴を表しています。
実際に、ろうそくの炎を直接測った研究もあります。
2009年の照明学会の大会発表では、6本の和ろうそくについて炎による明るさの変化を測定しています。その条件では、ゆらぎに1/fで近似できる特徴があることや、和ろうそくと洋ろうそくの違いが報告されています。
ただ、この発表が調べたのは炎の変化です。眺めた人のストレスや睡眠がどう変わったかを確かめたものではありません。「炎にある特徴が見られた」という結果だけでは、その特徴が人を落ち着かせる原因だとは判断できないのです。
心地よさを確かめるには揺れのある灯りとない灯りを比べるなど、別の検証が必要になります。ただ、自分が炎を眺めて落ち着くならその感覚は大切にしてよいものです。理由のすべてを、ひとつの科学用語で説明しようとしなくてもよいのではないでしょうか。

灯す手順を、一日の区切りにする
キャンドルを用意して安全な場所に置く。
火を灯し、椅子に座る。
この一連の動作を「今日はここでひと息つく」という合図にしてみることもできます。
決まった行動や、自分なりの意味を持つ「儀式」に目を向けた心理学研究があります。NortonとGinoが2014年に発表した論文では、身近な人との死別や別れを振り返る課題、実験室で賞金の抽選に外れる課題などを通して、儀式と喪失後の気持ちの関係を調べました。
実験条件のもとでは、儀式を思い出したり実行したりした群で、悲しみの自己評価が低くなる結果が報告されています。自分で状況に関われるという感覚も、その関係を説明する要因として示されました。
Norton・Gino「Rituals Alleviate Grieving for Loved Ones, Lovers, and Lotteries」
この論文はキャンドルの効果を調べたものではありません。日々の疲れや、どんな習慣にも同じ結果が当てはまるかは別の問いです。
ここからは、暮らしへの取り入れ方としての提案です。
灯りを整える時間をつくり、その間は画面を置いておく。
考えをきれいにまとめようとせず、座って過ごす。
気になることが残っていても、ひとまず手を止める。
その区切りにキャンドルがしっくりくるなら、使ってみる。火を扱うことが気になるなら、小さな照明でも構いません。自分が続けやすい手順を選べます。

小さな灯りの向こうに、作る人の仕事がある
キャンドルの魅力には、素材や作り方を知る楽しさもあります。
たとえば、岐阜県飛騨市の三嶋和ろうそく店の生掛け和ろうそくは、ハゼノキ由来のろうと、和紙・灯芯・真綿を使った芯から一本ずつ手作りされています。飛騨古川まつり会館の紹介記事では、暮らしや地域の行事の中で和ろうそくが使われていることも語られています。
飛騨古川まつり会館「三嶋順二さん(三嶋和ろうそく店7代目)」
目の前の灯りにも材料を用意し、形にする人の仕事があります。
炎だけを眺める日もあれば、作り手の手間に思いを向ける日があってもよいでしょう。何に目を向けるかで、同じ一本との付き合い方も変わります。

「100万人のキャンドルナイト」が提案する時間
灯りを変えて、過ごし方を考える。その試みを広く呼びかけてきたのが「100万人のキャンドルナイト」です。
公式サイトによると、2003年に大地を守る会の呼びかけで始まり、夏至と冬至の夜8時から10時に電気を消して、ゆっくり考える時間を持つことを提唱してきました。何を考え、どう過ごすかはそれぞれに委ねられています。
暮らしを振り返ってもよいし、誰かと話してもよい。
特別な答えが出ないまま、その時間が終わってもよいはずです。
私たちは、休む時間にも「何かの役に立ったか」を求めてしまうことがあります。キャンドルを灯す夜くらいは、どれほど癒やされたかを採点せずに過ごしてみる。そんな使い方もできそうです。

火を灯すなら、見守れる場所と時間で
キャンドルを楽しむときは、倒れにくいホルダーを使い、紙やカーテンなど燃えやすいものから離します。火をつけたまま部屋を離れたり、眠ったりしないことも大切です。
また米国消防局は寝室など眠る場所での使用を避けることや、電池式の火を使わないキャンドルを選ぶことも勧めています。
眠気が出てきたら消す。
途中で席を立つときも消す。
火を見守る余裕がない夜には、電気の灯りを選んでください。

心地よさを確かめる、ひと息の時間
キャンドルの心地よさを考えるときは夜の光の影響、炎のゆらぎの特徴、灯す行為に込める意味を分けてみると、話が見えやすくなります。そして研究から説明できることがある一方で、自分がその時間をどう感じるかは、実際に過ごしてみて初めてわかる部分もあります。
「今日は少し休めた」と感じられるなら、その時間には自分にとっての意味があります。
何も感じない夜があっても、うまく休めなかったと責める必要はありません。炎を楽しむ日、小さな照明で本を読む日、早めに眠る日。今の自分に合う夜の過ごし方を選んでみてください。

ひと息つく夜に、月のミツロウキャンドル「月あかり」
「自分の暮らしでも、キャンドルを灯す時間をつくってみたい」
そう感じた方へ、明璃-あかり-で販売している満月のミツロウキャンドル「月あかり」をご紹介します。

「月あかり」は、ミツロウと麻の芯を使ったキャンドルです。満月を思わせる明るい色合いと、灯したときの炎の揺らめきを楽しめます。
一日の用事をひと区切りつけて、スマートフォンを置く。灯りを眺めながら、しばらく何もせずに過ごす。そんな夜のお供に選んでいただけたらうれしいです。
ご注文をいただいてから製作するため、発送までに1か月ほどお時間をいただく場合があります。商品の写真や詳細は、BASEの商品ページをご覧ください。
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